舌のあるべき位置について

 顎関節症の原因となっているTCHを治すトレーニング中の患者さんから,しばしば受ける質問として「舌の位置はどこにしたらいいのでしょうか」というものがあります.それまでTCHによって顎の筋肉がいつも緊張状態にあった患者さんの多くが,舌も回りの歯に押しつけていたり,上の口蓋にギュッとくっつけていたりします.中には近所の歯科医から「舌の先は上顎前歯の後側にあるのが正常です」と言われ,自ら舌の先をそこに起き続けようとして逆に疲れてしまい「どうしたらそこに置いておけるのでしょうか?」とお尋ねになることもあります.

 正常な状態では,舌先が上顎前歯裏側のでこぼこしている部分である口蓋皺壁(こうがいすうへき(口蓋の最も前にあるところで「こうがいのしわしわ」という意味))に軽く触れているのです.この位置が起点となって,どちらの方向にどのくらい動かして声を作り出すとか,咀嚼に際して動かす方向と移動量を決めるという動作を無意識に行っているわけです.正常なあるべき場所ではあるのですが,TCHなどがあり,いつも顎を緊張させている人の場合,しばしば上記したように他の場所に舌尖が来ているのです.

 ではこのような人に「正常な位置は・・・」と話すだけで,正常な位置に舌をいつも置いておけるようになるでしょうか.医科歯科大学で多くの患者さんに「本来の舌の位置は・・・」と話しましたが,実際にそのように指導して正常な位置に舌を置けるようになった患者さんは一人もいません.これは歯科医側に問題があり,元々癖として持っていた誤った舌の位置占めを意識的に治そうとすることは無理なのです.この舌の位置を正すべきであるという考えはアメリカから入った考えですが,単に「止めなさい」ではTCHが治らないのと同じで,無意識な反射行動を取れるように訓練しない限り治すことはできないのです.こういったことから,反射行動を作り出すトレーニング法がないアメリカでは舌の位置の修正指導は効果がないとして現在は行われなくなっています.

 ではどうすればいいのでしょうか.簡単です.「舌に位置について考えるのを止めなさい.そしてTCHを治して顎がリラックスできるようにしなさい」というだけでいいのです.TCHが抜けると下顎を支えている筋肉がリラックスできるようになります.それと同時に舌も力が抜けるようになり,力が抜けると自然に舌尖が口蓋皺壁に触れるか触れない状態に落ち着きます.舌の感覚は鋭敏ですので,TCH是正訓練中は「おちつかない」と感じますが,TCHが抜けてくると舌について気にならなくなり,TCHが抜けると自然に本来の位置に舌がある事を気づけるようになるはずです.