顎関節症の特殊なタイプ -関節円板後方転位-

 顎関節症には4つのタイプがあると述べました.実はそれら4つほど多くはありませんが,特殊なタイプのものとしてもう一つあります.それは関節円板が後方にずれるタイプです.関節円板のずれのほとんどは,前方にずれることでカクンと音が出たり,あるいは口が大きく開かなくなるのですが,まれに後方にずれる場合があります.このずれが起こると,顎の骨の関節になっている先端(下顎頭)が口を閉じる時に,ずれた関節円板に邪魔されて,本来のあるべき位置まで戻ることができなくなります.その結果奥歯が噛み合わなくなります.右の関節円板がずれると右の奥歯,左がずれると左の奥歯が噛めなくなります.無理に咬み込もうとすると痛みが出るはずです.口が充分に開かなくなることも不便ですが,食品を噛みしめられなくなることも困りものです.そのために患者さんはおかゆとかかみしめが不要な食品しか食べられなくなります.このずれの原因ははっきりしておらず,しかも突然起きますので,そうなった患者さんはビックリしてしまいます.この関節円板後方転位による顎関節症が起こることはまれであることから,そのようなものがある事を知らない歯科医も多くいるはずです.一般的には顎関節症の専門医以外には分からないかもしれません.

 

 それではこの場合の治療はどうすべきなのでしょうか.以前学会に初めて報告された時は,かみ合わせに邪魔となった関節円板は手術で除去するという治療がなされました.しかし現在では手術しなければならないと言う例はなくなりました.ではどうするかというと.この奥歯が噛めないという症状が起こってからしばらくの間は,噛みしめようとすると痛みが出ますので,その痛みがあるうちは柔らかい食事を摂りながら経過を見てください.しばらくするとかみ合わせの痛みが出なくなります.そうなったなら,ご自分の手で下あごを後上方に押すトレーニングを開始します.これを続けていると,徐々に奥歯が噛み合う様になってきます.そうなってくれれば手術など行う必要はありません.これは下顎頭を後上方に押すことで,徐々にずれていた関節円板が潰されて薄くなり,下顎頭が本来の位置に戻れるようになりかみ合わせができるようになるのです.人によってはこのトレーニングをしているとある日突然噛めるようになることもあります(こちらの方が数は多いかもしれません).これはトレーニングである日突然円板が前方にずれるために噛めるようになるのだと考えられます.このようなトレーニングでこれまで木野自身が担当した20数例の患者さんは2名を除いて手術せずに噛めるように戻りました.2例の方々も手術はせず歯列矯正で噛めるようになっています.このトレーニング方法の詳細に関しては,顎関節症の専門医にご相談ください.