なにがTCHの始まるきっかけになるのか

 TCHをもつ人ともたない人がいる理由を説明しましたが.それではどんな事がきっかけになってTCHをもつようになるのでしょうか.「もつ人もたない人」でも1例を出しましたが,何かに夢中になるという行動が上下の歯を接触させたままになるようです.そしてその時に精神的に緊張するという状況があると,その歯の接触行動を長く維持するのだろうと考えられます.

 人は誰でも,初めての作業や行動を行おうとするときに,軽く上下の歯を咬んで体を緊張させます.そうなのです「歯を合わせる」ことが体を緊張させるのです.ですからこの行動は本来人間に備わっている反応として起こる行動なのです.しかし,前にも説明したように歯を合わせたままにしていると,咬む動作を支えているアゴの筋肉は疲れます.疲れるので無意識に「歯をはなす」動作が起こるのです.しかし行っている動作・作業の内容によっては,その弱い疲労感を無視することが始まるのです.同じ作業をするたびに歯を接触させたままにすることを繰り返すことが,徐々に疲労に気づかない脳を作っていくのです.このような作業の典型的なものがコンピューター作業ではないかと考えています.コンピューター入力では「調子が出て来た」とか「締め切りが迫っている」といった状況があると,休憩を取ることなく数時間もキーボードに向かうといったことが当たり前になっていないでしょうか.上に説明したように,そのような作業を繰り返し行うことによってTCHが定着していくことが推測されます.その結果,勤務時間が終わる頃にはアゴの筋肉疲労から頭痛や肩こりがひどくなるといった症状が出ることもあります.このように勤務でのコンピューターがTCHを作り出している方の場合,勤務のない休日には夕方になっても頭痛や肩こりがない.という現象もあります.

 今,典型例としてコンピューター作業を取り上げましたが,冒頭に説明したような体を緊張させる作業には色々あるだろうと考えられます.初めてする事になる各種作業,精密な機械作業を必要とする仕事や本来の姿勢ではない専用の姿勢を必要とする作業,一心不乱にのめり込むような読書や映画鑑賞,スマホゲーム等さまざまです.しかも,初めて行うときには緊張してしていた作業も慣れるに従って緊張することはなくなるはずです.ところが緊張しなくなっても「歯を接触させ続ける」という行動は続いてしまうのです.強い疲労感ではないために脳が慣れてしまうためだと考えられます.これが強い噛みしめ行動であったなら「疲れた」と感じて歯をはなすのですが,弱い疲労感であるために気づけなくなるのです.ですから,よく患者さんに話す言葉として「強い噛みしめよりも,軽い接触の方が罪が重い」と言います.

 この説明をお読みになっておいでの方で,ご自分でもTCHがあると判断されたなら,是非どのような状況下で「歯を接触させている」かをチェックしてください.おそらくは上で説明したことをご理解いただけるだろうと思います.

 こうして始まるTCHの例を,これまで患者さんからうかがったことを整理し,次の説明のようにまとめました.あなたの場合に当てはまる例はありませんか?

TCHが始まるきっかけにはどのような状況があり,その結果どうしてTCHが定着するのか.

 人は何か慣れていない作業をしようとするときには,かるく上下の歯を噛み合わせて精神を少し緊張させながら作業を開始するでしょう.これがだれでも行う通常の行動です.しかし,同じ作業を繰り返し行いそれに慣れてくると,精神的には緊張しなくなるはずです.精神緊張が起こらなくなると,体もリラックスして筋肉の緊張もとけるのが普通の反応でしょう.ところが,精神の緊張はなくなっているはずなのに,筋肉緊張,特に顎を動かす筋肉の緊張がとけないままになる方がいるようです.これがTCHとしてその方に緊張癖が定着する流れなのです.

1.TCHが始まるきっかけにはどのようなものがあるのか

1)特定の作業や行動がきっかけとなって歯の接触時間が長時間化し,その行動の繰り返しが起こる場合

①コンピューター作業

②精密作業

③家事作業

④車両運転作業

⑤勉強

⑥携帯端末操作行動

2)精神的緊張を必要とする行動による歯の接触の長時間化,繰り返し化が起こる場合

①危険を伴う緊張を要する作業

②緊張を強いられる人間関係の中での行動

③心理的葛藤・苦しい決断を強いられる思考作業

④不安を持ちながら続ける受験勉強

⑤夢中になって読みふける読書

⑥感情移入して見続けるシリアスドラマの映画

⑦一心に没入するコンピューターゲーム

2.どのようなことが起きてTCHが定着するのか

1)上で説明したような,歯を接触させ続ける行動を断続的に繰り返す.

2)そのたびに口を閉じるための閉口筋(咀嚼筋)が活動する.

3)本来であれば筋活動によって発生する筋疲労に脳が気づき「歯の接触を中断して筋肉を休めようとする」のだが,この筋活動で生じる筋疲労は軽い疲労なので,繰り返して疲労が発生すると,その軽い筋疲労に脳が慣れてくる.

 4)筋疲労に脳が徐々に慣れてくると「歯をはなして筋肉を休めよう」とする反射行動がしだいに起きなくなりTCHが定着する.